2017年のある日、撮影のため訪れた西表島で、その雄大な自然と、ユニークな文化にすっかり魅了されたKEENスタッフがいました。何度も島を訪ねるうちに島の人から近年、旅人によって起こる課題があることも知らされます。この素晴らしい自然と文化をたたえた島を、次世代にも継承していくために「ツーリストの立場からできることはないだろうか」という熱い思いに突き動かされ、構想2年を経た2019年4月15日、イリオモテヤマネコの日に、旅先への敬意と思いやりを忘れない『エシカルな旅』を提唱するUs 4 IRIOMOTEプロジェクトをスタートしました。
「エシカルな旅」を模索して
当初、私たちは外部の人間が起こしがちな勘違いをします。地域にある「課題」…例えば、ごみ、野生動物の交通事故、オーバーツーリズムを「解決」するためにこのプロジェクトを立ち上げたいとおもったのです。そして、「意識を変えていきたい!」と意気込みました。しかし、色々地域の方とお話するなかで、それが大きな「勘違い」であることに気づきました。島の方たちは、すでに様々な課題解決のために真剣に動き、何百年も継承し続けている素晴らしい文化と共に生き、日々をとても丁寧に暮らしていると知ったから。そこからは、都会の人間が学ぶべきことに溢れていたのです。
学びの中で、1つの不都合な真実に私たちは突き当たります。
「私たち=ツーリスト」こそが「課題」なのでは、と。私たちはそこにある自然や文化を勝手に甘受して、荒らして、使い捨てているんではないか?(SNSで勝手に土地をピン付けして投稿したり、人気のスポットに押し寄せたり、日帰りで楽しんでゴミだけを地域に置いて帰ったり。)そんな気づきから、すこしでもツーリストが地域に「貢献」できる旅の形はないんだろうか。この自然や文化を次の世代に繋げていける方法をツーリストとしては、なにができるんだろうか?という議論になり、そこから「エシカルな旅」というコンセプトが生まれました。
島が先生。ツーリストは、生徒。
学ぶ姿勢を持って、自分の暮らしも見つめ直してみる。そんなライフスタイルの変容を生み出したいということが、このプロジェクトの根底にはあります。漂着ごみを見て、ペットボトルをもう使うのをやめようと思う人が増えること。自然と共に暮らす島の人の存在を知って、自分の買うもの、使うものを変化しようと思う人が増えること。消費社会ではない、本当はあるべき暮らしの姿…石垣昭子さんの言葉をかりると「あたりまえの暮らし」に気づく人が増えること。大仰なことではなく、シンプルに。あたりまえに。毎日の暮らしや、人生に紐づくプロジェクトでありたいと思っています。
たくさんの幸運な出会いに感謝
この5年間、いくつもの幸運な出会いがありました。まず、沖縄をベースに活躍する、仲程長治さんと松島由布子さん(映画の作成から始まり、今や事務局を一手に担っているメンバーであります)に出会ったこと。西表島の郷土史家・伝統芸能継承者である 故 石垣金星さん、島の植物による伝統的な染織の復興に取り組む染織家 石垣昭子さんとの出会い、そしていつもアドバイスをしてくださったこと。島の素晴らしいガイドさんたち、NPOのみなさん、迎え入れてくれた島のみなさん。共感してくださった行政や企業、他の地域の応援してくださっているみなさん。素敵なアートワークを作ってくださった長場雄さん。どの出会いもなくしてはこのプロジェクトはありませんでした。この場をお借りして、改めて心からの感謝を。本当にありがとうございます。そして、これからも、Us 4 IRIOMOTEをよろしくお願いします。
KEEN JAPAN 井上泰子
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